この度は当社ブログをご購読頂き誠にありがとうございます。
コロナ禍、物価高騰、異常気象とアパレル関連業界や中小企業が置かれている環境は引き続き厳しい状況にあります。

しかし、こんな時だからこそ、経営課題の見極めと整理が必要だと考えています。
なぜなら、経営環境が変われば自社の経営課題も変わるからです。

特に昨今のコロナ禍、価格高騰といった激動の経営環境におかれている今においては経営課題も多様化、複雑化してきています。

そのため、経営課題を見誤らず、改革や改善を進め今後の成長に役立て頂ければと考え今回のブログを執筆しました。
是非、ご参考にして頂ければ幸いです。

しかし、ここ最近でのご相談で感じるのは、経営者が認識されている「経営課題」が十分に整理出来ていないとうことです。

それは当然のことで、人間の体と同じで「自分のことは自分が一番解らない」からです。経営者が日々目にする目にするのは、目の前で起きている現象や問題です。
そのため、どこに問題や課題があって、結果になるのかが見えにくいのでしょう。

今回は、当社が経営診断を行う際の視点と、ポイントについてご説明いたします。
自社の経営課題の整理にご活用頂ければと思います。

アパレル経営診断の3つの視点(経営の三階層)

当社では、デューデリジェンスや経営診断を行う際には次のようなフィルター(三角図)を使っています。
今回はアパレル小売業を例にしてご説明いたします。

この三角形の図で見ると、ビジネス全体を概念的にとらえることが出来ます。
またどこに経営課題があり、結果の利益がどうなっているのか整理しやすくなります。

この三角形は3つの階層に分かれており、上から財務の領域(カネ)、実務の領域(モノ)、組織(ヒト)の領域となっています。

以下、この図をもとにご説明していきます。

財務(カネ)の領域

三角形の上層部分は会社の「売上、原価、利益」となります

決算書の並びでは利益は一番下となりますが、この図では頂点が利益となっています。
そして、この上層部分の「売上、原価、利益」を決定づけるのは、次の中層である実務の領域(モノ)と言えます。

この三角形の図のように中層の実務の領域に「売上、原価、利益」が支えられているわけであります。
中層の実務領域が強くしっかりしていれば、三角形の頂点の利益は黒字となりますし、実務領域が弱くがたついていれば、頂点の利益は赤字となるわけです。

実務の領域(モノ)

次に中層部分である実務の領域です。金融業界では「オペレーション」と言われる領域です。

アパレルに限らず多くのビジネスや業種では、この領域は、左右の二つのベクトルで構成されています。

上記の図のアパレル小売業の場合、左の⑴販売活動のベクトル、右の⑵MD・仕入活動のベクトルとなります。

更にそのベクトルの中に、固有の実務要素が入っています。
販売活動では、売場設計、VMD、接客、販売促進策などの実務要素があります。
MD・仕入活動では、コンセプト、MD、売場企画などの実務要素などがあります。

そして、実務領域では、この2つのベクトルの実務要素の品質が重要となります。

例えば、⑴販売活動では、優秀な接客スタッフが多くいるか等、⑵MD・仕入活動では、コンセプトに基づいたMDが組まれているか等です。

また、各々の業務要素の品質と合わせて重要なのが、⑴店頭販売活動、⑵MD・仕入活動の2つのベクトルがバランスよく上手く嚙み合っていることです。

しかし、この2つのベクトルを上手に噛み合わせバランスを取るのは容易ではありません。

これらの⑴販売活動、⑵MD・仕入活動は、組織設計上、違う部門が行う体制となっているアパレル会社が殆どです。例えば、店舗運営部、商品企画部といった形です。

各々の部門が目指すものは、最終的に売上予算と利益予算となりますが、そこに向けてのアプローチ方法や考え方が大きく違います。

例えば⑴販売活動では、店舗では常に売場のお客様を見ているので巷で流行っている「今売れるもの」が欲しいとなります。またお手頃価格の「売りやすいもの」を求める場合があります。

一方で、⑵MD・仕入活動では、常に半年~1年先の仕入活動を行っているので、「今売れるもの」ではなく、来シーズン売れるものという視点となります。また、コンセプトやブランディングの観点から、お手頃価格の「売りやすいもの」ではなく、多少高くても「当店らしいもの」の仕入れも必要となります。
そのため、この左右のベクトルを行う部門を、上手く連携させていくことが必要となるわけです。

そして、これらの2つのベクトルの実務要素の品質と、ベクトルのバランスが上手くとれると、他店との差別化、ブランド化、顧客満足に繋がり店舗としての競争力は増していきます。

その結果、中層が盤石となれば、上層の「売上、原価、利益」を支えるということになります。

逆に2つのベクトルの実務要素の品質が悪く、ベクトルのバランスが悪いと他店との差別化、ブランド化、顧客満足に繋がらず競争力は落ちていきます。

例えば、左の実務要素である、店舗の売場設計や接客力は高くても、右の実務要素であるMDや売場企画の実務要素が低ければ左右のベクトルのバランスが崩れ上層の「売上、原価、利益」を支えるには至りません。

尚、この中層の実務領域を強くしていくのは、実務要素の下にあるPDCA活動となります。
PDCAを回しながら、この2つのベクトルを強化し盤石としていくわけであります。

組織(ヒト)の領域

最後に一番下層である「組織」の領域です。

従業員数が2~3名までの家族経営であればともかく、従業員が10名、30名、100名となっていけばビジネスは「組織」で行わなければなりません。

中層部分の実務領域を担うのも結局は「組織」でありヒトです。

そのため、この下層領域は、三角形を支える土台であり、ビジネスや事業の基盤とも言えます。ここが弱いと、中層部分の実務領域も弱くなり、しいては三角形の上層の「売上、原価、利益」の上層も崩れるということになります。

そのため、この三角形、つまり経営にとって最も大事な部分とも言えます。
また、この土台部分は会社の規模によっても変えていかなくてはなりません。
事業が大きくなるとは、この三角形の大きさ自体が大きくなるということです。
三角形が大きくなれば、必要な底辺の長さは大きくならなければなりません。
そのため、企業の成長や規模によっても、見直し、強化していく必要があります。

それ故、この組織(ヒト)の領域の中にある、組織設計、人事制度、経営理念などの項目は無視できないわけです。

尚、当社の経験上、長期にわたり業績が思わしくない会社は、間違いなく下層の組織領域に課題や問題を抱えています。

ビジネスの土台部分に欠陥があるため中層も崩れやすく、上層の「売上、原価、利益」を実現できず長期にわたり業績が低迷するということなのでしょう。

経営の三階層(まとめ)

以上、当社がアパレル小売業の企業診断を行う際の三階層の視点についてご説明致しました。
この三角形を使い、どの領域にどのような問題や課題があるのか、整理することが経営課題を見誤らないポイントだと考えます。

また何故このような視点での整理が必要かという点を補足します。
人間の病気の治療と同じで、各領域によって処方箋が違うからです。
例えば、中層の左のベクトルに課題があるのに、右のベクトルの改革や改善をしても上層の「売上、原価、利益」には繋がりません。
また、下層の組織の領域に課題があるにも関わらず中層の実務領域の改善をしていても同じです。
そのためにこうした経営課題の整理が必要となります。

是非ご活用して頂ければお思います。
次に、アパレル企業に限らず、他業種にも応用可能ですので少しご説明いたします。

経営の三階層は業種・業態が違っても構造は同じ

先ほどは、アパレル小売業を例にしました。
しかし、殆どの業種やビジネスでもこの構図は同じです。
違いと言えば、中層部分の実務領域の2つのベクトルと実務要素が違うだけです。
下記は、製造業やメーカーの場合の三階層です。

左のベクトルは、製品を企画し受注を獲得する⑴営業・企画活動、右のベクトルはそれを生産する⑵生産活動があります。

またその中味である、実務要素は製造業やメーカー固有のものとなっています。⑴営業・企画活動では、取引先への営業活動が重要となりますし、製品企画も重要となります。⑵生産活動では、生産計画、生産統制、生産の4Mといった生産管理の実務要素が重要となります。

そしてここでもまた、2つのベクトルのバランスと実務品質が重要となります。

その結果、製造業の競争優位であるQ(品質)C(コスト)D(納期)が実現し、製造業としての競争力となります。

またこの中層の実務領域も、PDCAを回すことで強化していくことが可能です。
中味が違うだけで、ビジネスの構造自体は殆ど変わらないと言えます。

このことは私(有馬)が在籍していた銀行のビジネスでも同じでありました。
銀行の収益の大部分は法人向けの融資とそこからの金利収入で成り立っています。
銀行の場合は、左側が営業推進、右側が与信管理となります。
やはり、その中味の実務品質と2つのベクトルのバランスが重要となっていました。

こちらは余談となりますがご参考まで。

留意点:経営課題の見極めが難しいケース

特に次のような場合、経営課題の見極めは難しくなります。
そのようなケースをいくつかご紹介しておきます。

中層のベクトル数が多い事業の場合

先ほどま中層である実務階層のベクトルが2つの業種や業態を説明してきました。しかし世の中には3つ、4つのベクトルがある会社もあります。

一番解りやすいのは、事業内容が多い会社です。

以前ご支援させて頂いた、アパレルメーカー様は、自ら商品を企画し、自社製造し、卸売り事業を行い、直営店事業とWEB販売事業を行っていました。

組織としては、企画部、製造部、卸営業部、直営店事業部(WEB販売課含む)の4つの部門が存在しました。

このような会社になると三角形の図は2次元ではなく立体三角形となります。

そして立体三角形の各々の面がベクトルとなり、実務要素が含まれて行くことになります。

こうした事業内容の場合、各々の実務領域の関連が複雑化し、調整や連携も難しくなります。
また、各々の部門の課題や因果関係は見えにくく、課題も整理するのが難しくなります。

事業内容の幅を広げ過ぎるとこうした状況に陥りやすくなります。

それ故、中小企業は身の丈に合わない多角化をしない方が良いと日々申し上げております。での例では

経営者が実務領域のプレーヤーである場合

中小企業の場合、経営者自身も実務領域のプレーヤーである場合があります。
この場合も、経営課題は見えにくくなります。

例えばアパレル小売業の場合、社長がバイヤー職を兼ねていたとします。

社長がバイイングした商品が売れなかった場合、店舗のスタッフが悪いとなります。
店舗スタッフも相手が社長であるため意見を言うことが出来ません。
そうすると本当は右のベクトルのMDが悪かったとしても、そこは社長の聖域。
悪いのは左のベクトルのスタッフの接客力となります。

こうして真の経営課題を見誤っていくことになります。
必ずしもこうなる訳ではありませんが、そうなる可能性は高くなると言えます。

組織の領域の経営課題

ビジネスの土台部分の組織の領域は最も課題が見えにくい領域です。
組織設計、人事制度などの制度的な欠陥はすぐに判別は可能です。

例えば、統制範囲を超えている組織設計、定性評価が多い人事評価制度などです。
しかし、次のような問題は、それが経営課題なのかの判別が難しくなります。

(下記は当社が定義する組織の領域のチェックリストの一例)

□ 幹部職や管理職が成長ない

□ 社員が会社の方針や指示を守らない

□ 物事を決めても定着しない

□ 誰が悪い、どの部署が悪いといった「他責」が多い

□ 社員、部門間のトラブルが多い

□ チームワークや連携が出来ない

□ 離職率が低い

判別しにくい理由は、個人な属性からくる問題なのか、組織的に発生しているのかが見えにくいからです。

例えば「社員が会社の方針や指示を守らない」という事象があった場合、たまたまそういう方がいただけという場合もあります。

どのような会社でもこうした方は一定数存在します。
たまたま採用ミスなどでこうした方がいるのであればそれは個人の属性的な問題です。

しかしヒトを作るのは組織でもあります。
こうした方が多い、増えているようであれば、組織的に問題や課題がある可能性が高くなります。その場合は重大な経営課題と言えるでしょう。

最後に

冒頭申し上げしました通り、アパレル関連企業を取り巻く経営環境は厳しいものとなっています。

そうした中、置かれている状況や経営課題は各社異なると思いますが、こんな時だからこそ改革や改善を進め、事業の三角図を強化して頂きたいと考えております。

当社はアパレル・ファッションビジネス経営を強くすることで、「ファッションが楽しい社会を創る」ことを事業目的としています。

ご購読ありがとうございました。