アパレル経営の経営課題「お金と銀行取引」について

当社ブログをご購読いただき誠にありがとうございます。

今回は、アパレル経営の悩みの一つである「お金」の問題として、銀行取引関係についてお話させて頂いております。

本ブログの内容は、私の銀行時代の審査部での経験や、実際に見てきたアパレル業界の会社の状況から言えることです。統計的なデータはありませんが、経験上間違いないと考えています。

結論から言いますと、アパレル業界の会社様は他業種と比較し、銀行取引が上手くいっていない会社が多くあります。

銀行取引が上手くいっていないことは、次の2つの現象に表れてきます。
もし貴社が、この2つのケースに該当するようであれば、最後でご購読をされることをお勧めいたします。

お金と請求書

現象1:新規の融資が受けにくく、借りられても条件が悪い

新規や追加融資が受けられにくい会社を多く見かけました。
また受けられたとしても保証協会付の制度融資が中心で利息などの借入条件も悪い状況があります。
この低金利時代でも借入利息が3~4%といったケースもありました。
これはアパレル業界の会社によく見られる傾向です。

 

現象2:メインの金融機関が無く支援を受けられない

これもアパレル業界の銀行取引でよく見かけるケースです。
他業種では、たいていそれなりの規模(年商2~3億以上)の会社となるとメインの金融機関(メイン行)が出来る場合が殆どです。
しかしアパレル業界の会社はメイン行が無い銀行取引となっているケースがあります。

メイン行があるとは、例えば次のような銀行取引関係です。
年商500百万円~10億円、銀行借入200百万円で想定しています。

(借入残高)

A銀行100百万円 B銀行50百万円 C銀行30百万円 政府系20百万円

記の場合は、継続的な支援をしてくれるメイン行があり、準メインが2行、政府系金融機関が1行状態です。
元銀行員でもある私からすればこの状態が理想です。
理由は、メイン行の継続的な支援が受けられること。設備投資や出店資金について長期的な目線でビジネスを評価し融資してくれます。

また今回のコロナ禍のように外部的な要因で一時的な業績不振に陥っても追加融資などの支援に応じてくれる可能性が高くなります。

メイン行だけではなく、準メインもいますので、銀行間では融資シェアを競う競争関係にあります。そうすると利息などの借入条件も有利になる可能性が高くなります。

次はアパレル業界の会社に見られるメイン行が無く銀行取引が小口分散している場合です。

(借入残高)

A銀行30百万円 B銀行30百万円 C銀行30百万円 D銀行30百万円
E信金20百万円 F信金20百万円 G信金20百万円 政府系20百万円

なぜこうした銀行取引となるかと言えば、どの銀行もリスクを取りたくないからです。
リスクを取りたくないのでメイン行は出来ず小口分散化していきます。
設備投資などで追加融資をお願いしても受けてもらえず、他の金融機関を探しさらに借入先が小口分散化していきます。

また一時的な業績不振となった場合も「他を当たってくれと」追加融資はたらい回しにされやすくなります。

銀行取引全体では融資シェアの取り合いをしているのではなく、リスクの擦り付け合いをしているだけなので利息などの借入条件も悪くなります。

実際にこうした銀行取引となっているアパレル会社を何度も見たことがあります。

アパレル業界の会社は、なぜ銀行取引関係が良くないのか

それでは、なぜアパレル業界の会社はこうした状況になりやすいのでしょうか。
それには当社が考えるに3つの要因があります。

アパレル業界では当たり前だとしても、銀行はアパレル業界の会社だけを見ているのではありません。他の業界の会社との比較で見ると、どうしても次の3点が強く感じられます。

1)トレンドや流行のある安定性のないビジネスだと思われている

メーカーでも商社でも小売店でも、アパレル業界で扱うファッションでは、トレンドや流行があります。一時的に業績が伸びていたとしても、それらが無くなれば業績が急降下する安定性のないビジネスだと思われています。
悪い言い方をすれば、水商売、博打ビジネスのような見方をされてしまいがちです。

2)業績が悪化した場合は外部環境に問題があると言い訳する

何らかの理由で業績が悪化した場合、アパレル業界の会社の経営者はその理由を外部環境で説明します。
例えば、「コロナにより売上が落ちた」「物価高騰により消費意欲が無くなっている」「大量在庫が問題となっているのはアパレルの業界構造が悪い」といった内容です。
この1)2)により、銀行から見れば、外部環境任せの博打ビジネスのように感じられてしまいます。

3)財務内容の信頼性が低い

アパレル業界の会社の財務内容は不透明な点が多い場合があります。
一見利益は出ているように見えても期末在庫が期首より大幅に増加し、それにより利益が出ているだけで、在庫は不良資産である場合もあります。

また誰からのアドバイスか解りませんが小手先の決算調整で利益を出しているように見せている場合もありました。

この状態を続けると、在庫滞留によりキャッシュフローは悪くなり、表面的に利益も出しているため法人税も取られ、さらにキャッシュフローは悪化するという悪循環となります。

以上が、私が銀行員時代、コンサルタントとしてアパレル業界の会社の銀行取引を見てきたところの状況と、そのようになりやすい要因です。

銀行取引関係を良好にするために必要なこと

それでは銀行取引を改善するためにはどのようにしたら良いでしょうか。
それは先ほどご説明しました3つの要因と逆のことを行うことです。

以下、ご説明いたします。

1)トレンドや流行に左右されないアパレル経営を行う

アパレル業界にトレンドや流行があるのは事実です。
しかしトレンドや流行は多かれ少なかれ、他業種でもあります。

例えば、食の業界でもあります。タピオカなどの韓国食ブーム、焼き肉ブーム等、これまでも様々なトレンドがありました。
インテリア業界でも和モダンやナチュラルティストなどのブーム、その年によってトレンドカラーもあります。
ここ最近のアウトドアブームでもキャンプの在り様は細分化され、ファミリーキャンプだけではなく、女子キャンプ、一人キャンプなどもブームとなり市場は常に変化しています。
自動車でもガソリン車からハイブリッド車、電気自動車、水素エンジンなど市場は常に変化しています。

こうしたトレンドや流行、市場の変化に対応していくためにどの業界でも、市場の先を見据えて、情報収集や研究開発を行い、新しい商品を開発、提案しているわけです。

またそのために組織やヒトを育て、会社としての技術力や企画力を高め日々経営努力をしているわけです。

つまりトレンドや流行があることと業績が安定するかしないかは全く別次元の問題です。
真の課題は、トレンドや流行があることではなく、それに対応していないことです。
アパレル業界でも、消費者の潜在的ニーズ、マインドを常に見据えて、商品企画、ブランド開発、仕入メーカーの開拓、新しいライフスタイル提案を日々行うべきでしょう。

またそれを行う組織やヒトを育て、会社としての企画力やブランド力を高めるべきでしょう。
簡単なことではありませんが、そうすれば流行やトレンドにより業績が左右されにくくなります。

尚、当社では外部環境に負けないアパレル経営を目指すための無料動画セミナーをご提供しております。
ご興味がございましたらご視聴くださいませ。
https://www.biz-renova.com/apa/

2)業績が悪化した場合は内部環境を中心に考える

確かにコロナ禍などの外部要因、価格高騰や温暖化などの影響を強く受ける業界であるのは間違いありません。
それでもそうした外部環境の中でどう生き残るのかを考えると、必然的に内部環境に目を向けるしかありません。内部環境とは会社の経営戦略、マーケティング戦略、社内の経営課題などのことです。

外部環境を見て、「価格高騰が悪い」「業界構造が悪い」といくら言っても1企業ではどうすることも出来ません。

それよりも、コロナ禍ではなどのような対策を行うのか、価格高騰にはどのような対策を打つのか、そしてそれに対して「誰が何を行うのか」こうした社内の内部環境に目を向け対策を取った方が生き残れる可能性は高くなります。

そうすると銀行への説明も、「コロナで売上が落ちた」ではなく、「コロナの影響を受けたのは社内のこことここに課題があった。だからこうした対策を進めている」となります。

この1)2)を行うことにより、外部環境任せの博打ビジネスではなく、しっかりとアパレル経営を行っている会社に見えてくるはずです。

尚、当社では、物価高騰下において、アパレル企業が取れる対策の一つについてご紹介しています。
こちらのブログもご参考にして頂ければと思います。
https://www.biz-renova.com/apparel_inflation/

3)財務内容の信頼性を高める

下手な決算調整で利益が出ているような決算書を作る必要はありません。
在庫を増やして利益があるように見せる。
減価償却を少なくして利益があるように見せる。
こうした小手先の調整は銀行の審査部ではすぐにばれます。
キャリー在庫が膨らんで、仕入原価で売れないのであれば減損処理を行ってください。
他、回収不能な売上債権があれば特別損失で償却してください。
赤字になったとしても下手に調整を行うよりもその方が信頼性は高まります。
このようにして決算書や財務内容の透明度を高めていってください。

銀行取引を良好にする方法(まとめ)

上記の3つを行うことで、銀行から見れば、しっかりとアパレル経営をしている会社に見えます。また決算書も信頼できるので与信判断や支援がしやすくなります。

以上、アパレル経営の悩みの一つである「お金」の問題として、銀行取引関係についてご説明してきました。

次回は、「お金」の問題として、キャッシュフローや資金繰りが厳しくなった場合の取るべき対応についてご説明させていただきます。

当社はアパレル・ファッションビジネス経営を強くすることで、「ファッションが楽しい社会を創る」ことを事業目的としています。

ご購読ありがとうございました。