第二部 「チームワーク」が発揮できない本当の理由

当社ブログをご覧頂き誠にありがとうございます。

先月に続き。オリンピック女子バスケットチームに学ぶ「経営と組織」というテーマでブログを投稿させて頂きます。

「組織」をテーマとしたブログでありますので、アパレルメーカーや、ライフスタイルショップ、セレクトショップなどのアパレル業界以外の会社様でも参考になるかと思います。

先月は第一部として次のブログ執筆させて頂きました。

まだご購読されていない方は、まずはこちらからご覧くださいませ。

「個に依存せず」組織で戦う ~「個に依存しない」から「個が活きる」~

第一部「個に依存せず」組織で戦う ~「個に依存しない」から「個が活きる」~

前回の第一部では、日本女子バスケットチームの事例をもとに、「個に依存しない」組織やチームの強さについて説明させて頂きました。

今回は、多くの会社で「チームワーク」を発揮できない理由について執筆させて頂きました。

日本女子バスケットチームのように「チームワーク」を発揮するための手法や対策、つまり答えを求められる方も多いかと思いますが何事も「原因」が解らないと「対策」は上手くいきません。

来月号にて「チームワーク」を発揮するための「対策」をご説明させて頂きますが、まずはその理由や原因について説明させて頂きます。

一般的に言われるチームワークの原則

チーム会議

さて、「チームワーク」をネットで検索すると、「チームワークに必要なこと」「チームワークの原則」をテーマにしたブログや記事が多く出てきます。

また「チームワーク」を向上させる研修の広告も多く見られます。

またAmazonで「チームワーク」と検索しても、実に多くの関連書籍を見つけることが出来ます。

これらの投稿や書籍が多いのは、多くの会社で「チームワーク」に対する課題意識や関心があるためだと考えます。

当社もコンサルティングの場で、「チームワーク」に関する相談を受けることは少なくありません。

そして、これらの投稿や書籍で一般的に言われる「チームワーク」の原則は次の4つです。

  • 共通目標
  • 情報共有
  • コミュニケーションの円滑化
  • メンバーの役割設定

これらは、どの投稿や書籍でも書かれていることは概ね同じであります。

まずは簡単にご説明いたします。

1)「共通目標」とは

チームプレイで戦える組織を作るためにはまず、「共通目標」が必要です。

日本女子バスケットチームのホーバス監督は「アメリカに勝ち優勝する」という目標を掲げ、チームの心を一つにしました。

経営で言えば経営理念、社訓、ビジョンといったものです。

当社でも、経営理念作成のお手伝いをすることもありますが、まずこれがないと話にはなりません。

2)「情報共有」とは

会社の状況、他部署の状況、メンバーの状況、プロジェクトやタスクの進捗状況、これらについての「情報共有」が「チームワーク」に必要だということです。

例えば、バスケットチームでは、試合中の戦略、相手チームの情報、選手の実力や得意、不得意技術、メンタル面の傾向、これらの情報をメンバーで「情報共有」しておくということです。

チームの戦略を理解していない選手がいれば試合中の連携は出来ませんし、相手チームの特徴を理解していなければ対策も打てません。また選手の実力や特徴を皆で共有していなければお互いにフォローも出来ません。

3)「コミュニケーションの円滑化」

これは2)とも関連します。部門との間、上司部下との間、メンバーの間でコミュニケーションが取れていなければ情報共有は出来ませんし、打ち合わせや調整が出来ません。

例えばバスケットボールチームでは、監督やコーチと選手のコミュニケーション、選手間のコミュニケーションがあって初めて情報共有が可能となります。またコミュニケーションを通じて、お互いの考え方を理解し、その上で連携できることになります。

 4)「役割定義」とは

最後に「役割定義」です。「役割定義」とは、その名の通り誰が何の役割を持つのかの定義となります。

例えばバスケットボールチームでは、監督とコーチの役割分担、選手のポジションの役割分担、ある戦略をとった場合に求められる個々の選手の役割などです。

こうした「役割定義」があることで、監督やコーチは連携して指導することが可能となりますし、各々の選手も自分がどのように動けば良いのかを理解することが可能です。

「チームワーク」に最も重要な「役割定義」

チームワーク

以上、これまで「チームワークの原則」と言われる4つについてご説明をしてきました。

これら説明してきた中で、当社の経験上、最も重要と考える点についてご説明します。

それは4)の「役割定義」であります。

例えば1)「共通目標」2)「情報共有」3)「コミュニケーションの円滑化」の原則が満たされていた場合のことを想定してみましょう。

「共通目標」や計画を掲げ、チームの心を一つにすることは重要です。

しかし、それだけでは「皆で目標に向け頑張りましょう」と言っているだけです。

また「情報共有」が満たされた場合はどうでしょうか。

チームの状況、相手チームの特徴、個々の選手の情報を共有したとしても、それは情報として「解っているだけ」であって次の行動には繋がりにくいでしょう。ここだけでは「私は何をしたら良いか」とならない訳であります。

「コミュニケーションの円滑化」においても同じです。「コミュニケーション」が円滑でも、それはただの仲良し集団であって具体的な「チームワーク」には繋がらないわけです。

つまり1)~3)は「チームワーク」の前提条件ではありますが、それだけでは足らない訳であります。

実はこの1)~3)を、それなりに満たしているが4)を満たせていないために「チームワーク」を発揮出来ていない会社が非常に多いように感じます。

す。

具体的に目標を実現できるチームにするためには、1)~3)だけではなく、仕組みとしての「役割定義」が必要ですがそこが不十分な会社が実に多いわけであります。

役割定義のある「チーム」と役割定義のない「グループ」

会議

以下、ここからが本題となりますが、「役割定義」について少し深く考察していきたいと思います。

組織やチームを「役割定義」の視点から見ると大きく2つの状態があります。

それは、「役割定義」がない状態か、「役割定義」がある状態かです。

まず「役割定義」のない状態を考えてみましょう。

例えばバスケが好きな人が集まって出来ているサークルのようなグループがあったとします。

サークルの目的は「楽しむこと」ですので、上下関係、役割分担、試合での作戦や、メンバーの育成計画や練習メニューもありません。

それでも、ある程度大きなサークルになるとリーダーのような、まとめる方が出来てきます。

こうしたサークルのリーダーは、サークルをまとめるくらいの役割しかなく権限や命令系統も無いでしょう。

また現場の選手たちも、ある程度、得意不得意によってポイントガードやシューターなどの区分けは出来るかもしれませんが、自分の得意なスタイルで個々に動くことになります。

オフェンスもディフェンスも統率は取れないでしょう。

稀に熱い選手がいて、「お前こうしろ」と試合中に言う位でしょうか。

しかし、それを言われても楽しむことが目的ですので「何あいつ熱くなっているんだ」というくらいにしか捉えられません。

そしてこうしたグループの勝敗は何で決まるかというと、個人の技術で決まります。

これは前回のブログでもご説明したところであります。

こうした状態のことを組織論では「グループ」と言われています。

勝つことを目的としたチーム

コンサルタント

一方で「勝つこと」を目的としたチームではどうでしょうか。高校の強豪チームや、今回オリンピックで準優勝した女子バスケットボールチームのような組織です。

そこには「勝つ」「優勝」といった目標に向け、全体を統率する監督、シュートを指導するコーチ、ドリブルを指導するコーチ、選手のケアを行うスポーツドクターのような役割の方々がいます。

そしてコートでプレイする選手も、現場でボールを運びゲームの司令塔になるポイントガード、点を取るシューター、ゴール下のリバウンドなどで力を発揮するセンターなどの役割があります。

各々の選手にはこの役割が与えられ試合中もその役割の中で活躍することになります。

またこうしたチームでは、試合前にはブリーフィングを行い相手チームに対する作戦を立て、その作戦が通用しなければタイムアウトを取り作戦変更やメンバー交代を行います。

試合中に動きの悪い選手はベンチやメンバーから指摘を受けますし、選手もそれに従うことでしょう。

また試合後も試合内容や個々の選手の動き方などの振り返りや反省会を行い次に活かしていきます。個々の選手は指摘された課題を練習メニューに加え苦手とするところを強化していきます。また監督やコーチはその進捗を見ていることでしょう。

そしてこうしたチームの勝敗はどこで決まるかというと全体のチームワークです。

数式で例えると「勝率 = チームワーク率 × 個人の技術」といった感じになるでしょう。

そうすることで、個人技の総合点では格上のチームに対しても、勝利することが可能となるわけです。

今回オリンピックで準優勝した女子バスケットボールチームでもこうしたチームワークで勝利していたことはテレビを見ていた方であればご理解できるかと思います。

このように見ると、こうしたチームの勝敗は、選手の技術力が圧倒的な差でなければ「チームワーク=勝率」と言っても過言ではないでしょう。

こうした状態のことを組織論では「チーム」と呼んでいます。

「グループ」と「チーム」組織の違い

この2つの組織の状態を理解することはそう難しくないと思います。

それでは2つの組織は何が違うのでしょうか。

この2つの状態を組織図で示すと次のようになります。

左は、何となくのまとめ役であるリーダーがいるだけのサークル的な「グループ」」。

右は今回オリンピックで準優勝した女子バスケットボールチームのように目標を遂行する「チーム」です。

この二つの組織の違いは何でしょうか。

まず目標の違いでしょう。「楽しむこと」が目標か、「勝つこと」が目標かです。

これは先ほどご説明した1)「共通目標」です。

次に組織設計上の違いはどこにあるでしょうか。

それはこの図からも明確なように、明確な役割定義があることです。

この役割定義は、上下の役割定義、左右の役割定義となります。

上下の役割定義は権限と責任の関係、左右の役割定義は職種や仕事内容となります。

特に上下の関係における権限は責任とイコールとなります。

権限を付与する代わりに、責任も重たくなるということです。

左のサークル的な「グループ」には、こうした縦、横の役割がありません。

監督やコーチ、トレーナーなどの縦の役割はありませんし、ポイントガード、センターなど選手の横の役割も明確でありません。

対して右の目標を遂行する「チーム」の場合は、明確な役割定義があります。

監督の下にコーチが数名おり、マネージャーやトレーナーが存在し縦の役割が明確です。

また選手にもポイントガード、センターなど明確な横の役割があります。

これが2つのチームの大きな違いとなります。

お給料をもらう「グループ」集団になってしまう理由

会社ではしゃぐ人々

このように説明すると「役割定義は当社でも出来ている」と思う方もいるかもしれません。

実際に組織図や、職務分掌表を作成していない会社は少ないかと思います。

しかしながら、これまで当社が見てきた限りでは、現実的には「チーム」の状態になっていない「グループ」集団の会社が実に多いわけであります。

しかしサークルのような「グループ」集団でもある一定の「目標」や「目的」は必要です。

どんな会社もさすがにサークルのように「楽しむこと」を目的に集まっているわけではありません。

会社の場合はどのような目的で集まるかというと「お給料をもらうため」です。

つまり「お給料をもらうため」の「グループ」集団となってしまっているケースが少なくないわけであります。

そして、その状態は大きく分けると3つのケースがあります。

一つ目は「役割定義」そのものが不十分な場合です。

非常にめずらしいケースではありますが、こうした組織設計、役割定義を嫌う経営者もいます。

堅苦しく役割定義すると個々の実力が活かせないと考えるようであります。

一定規模以上の組織でビジネスをおこなってこなかった創業経営者に稀に見られる傾向です。

アパレル業界の場合は、個店から複数店舗へ急激に事業を拡大するケースは少なくありません。

個店経営の感覚のまま「家族経営的」に会社を大きくしてしまうとこうした状況が発生いたします。

典型的な「グループ」集団で、創業メンバーの帰属意識は高いものの、それ以外のスタッフの帰属意識が弱く、全体として「チームワーク」を発揮できない会社です。

二つ目は「役割定義」があったとしても「定義」自体が間違っている場合です。

これはアパレル業界に関わらず、業歴の長い老舗の会社に見られる傾向です。

昔はその組織形態や「役割定義」でよかったものの、時代の流れに合わなくなっている場合です。

こうした会社の場合、一応それなりに業務は回りますが、「チームワーク」が十分に発揮できません。

三つ目は「役割定義」はあるものの実際には機能していない場合です。

事例としては最も多いケースだと言えます。

特に先ほどご説明した「横の役割」、例えばアパレル業界の場合は、デザイナー、MD、販売員といった役割は比較的明確ですので大きく問題になることはありません。

しかし、「縦の役割」、例えば小売業で言えば、本部長、エリアマネージャー、店長、副店長こうした「役割定義」が問題となります。

理由は、こうした「縦の役割」、つまり管理職の役割は定義したところで役割を全うできるとは限らないからです。そこにはリーダーや管理職としてのマネジメント力、経験が必要となりますので定義は出来ていてもそれを実行できないわけであります。

バスケットボールチームで言えば、ただ監督やコーチを置けばいいというわけではなく、リーダー、管理者としての実力や経験が重要ということです。

こうした会社の場合も「チームワーク」は発揮されず、指揮系統が乱れ、組織全体の調整が上手く出来ず、業務上の問題やトラブルが生じやすいという現象が起きます。

以上が、「役割定義」が未熟なために「お給料をもらうためのグループ」集団となっている会社のパターンとなります。

「役割定義」が出来ていない会社の症例

症例解説

そして、「役割定義」が出来ていないと「チームワーク」というプラスの効果が発揮できないだけではありません。次のマイナスの効果も組織の症例として生じます。

一見、「役割定義」は関係ないと思われる項目もありますが、実は根っこのところで繋がっています。

「役割定義」が不十分か実質的に機能していない会社で実際に見られた症例です。

もし次の症例が起きているのであれば「役割定義」に問題がある可能性が多いのでチェックリストとして読んで頂ければと思います。

症例:PDCAが回らない

「役割定義」とPDCAは密接に関連しています。P(計画)は部署やヒトの役割定義があって落ちていきます。D(実行)を行うためにも「縦の役割」「横の役割」が必要となります。またC(チェック)を行う「縦の役割」である責任者が必要ですし、A(改善)に導く責任者が必要です。

バスケットボールで言えば、計画を立てて指示する監督、それを実行する選手とフォローするコーチやマネージャー、進捗をチェックし、改善に導く監督、コーチ、マネージャーが必要というわけです。

つまり、PDCAを回すためにも「役割定義」は必要ということになります。

症例:誰が悪いといった他責が多い

サークルのようなグループの場合、勝敗は個人の技量に依存します。そうすると試合に負けた場合、誰がミスしたといった個人批判が横行します。チームで戦っていないので責任は全て個人に転嫁されるわけです。会社の場合は、会議での他部署批判、個人批判となって現れてきます。

症例:目の前の仕事をこなすだけ

お給料をもらう「グループ」集団の場合、どうすれば得点できるか、作戦を考えたり、要因を分析したり、メンバーを交代したりしません。自分の目の前の敵やボールしか見ていないわけです。こうなると試合は成り行きで進んでいきます。

症例:離職が多い

お給料をもらう「グループ」集団の場合、ただ目の前の業務をこなすだけです。一時的には満足感はあるかもしれませんが、目標や評価を通じての自己実現やキャリアアップがありません。そうすると特に優秀な若い人材が「先が見えない」と言って辞めていきます。

症例:人間関係や雰囲気が悪い

お給料をもらう「グループ」集団の場合、基本的には社内の雰囲気が悪くなることはありません。しかし、「グループ」集団であるにもかかわらず、身の丈に合わない目標を持つとどうなるでしょうか。例えば過度な予算目標や販売目標です。一部の熱い人たちはその目標に向かって頑張りますが、ただ「お給料をもらう」ために参加している方との間に溝が出来てきます。目標を明確にすればするほど、個人に責任が転嫁され個人批判が生じていきます。そうすると人間関係や雰囲気が悪くなっていきます。

症例:社内トラブルが多い

業務上の意見の相違や対立はどの会社にもあるものです。それを調整していくのが「縦の役割」を持つ責任者なわけであります。しかしその責任者のマネジメント力や調整力が足りないとパワハラやいじめなどの社内トラブルを防ぐことが出来ません。場合によってはリーダーや責任者間で社内対立を始める場合もあります。

症例:ヒトが育たない

お給料をもらう「グループ」集団の場合、教育や育成といった役割も定義されません。

バスケットボールのサークルをイメージすれば解りやすいでしょう。ただバスケットボールをやりに来ているだけですのでチームの目標に向かって人を育てるという概念がありません。また個人も、「ポジションを確保する」といった具体的な目標がありません。そのためチームとして人を育てることはありませんし、個人も目標やインセンティブが無いために成長しません。

これらの症例は一部ではありますが実際に見かけた事例であります。

もしこれらの症例が見られるようでしたら組織の「役割定義」を見直す必要があるかもしれません。

「チームワーク」を発揮できない理由(まとめ)

以上、チームワークを発揮するために一般的には4つの原則があることをご説明してきました。

そのうち1)「共通目標」、2)「情報共有」、3)「コミュニケーションの円滑化」は「チームワーク」の前提であり、実際に「チームワーク」を機能させるためには「役割定義」が重要であることをご説明いたしました。

しかしこの「役割定義」がない会社、あっても機能していない会社が多くあります。

そうすると「チームワーク」どころか様々な組織的な症例を発症することをご説明致しました。

今回は「チームワーク」を発揮できない理由や原因についてご説明してきましたが、次回は1)~4)における当社が実践している「対策」や考え方についてご説明いたします。

当社はアパレル・ファッションビジネス経営を強くすることで、「ファッションが楽しい社会を創る」ことをコンサルティング事業の目的としています。

今回のブログが貴社のアパレル・ファッションビジネス経営にお役にたてれば光栄です。

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